ウェアシステムが抱える重大な欠陥とアデルMk2の開発経緯

セム編(AG140)で登場した量産型AGE1と言えるアデルだが、最大の特徴で
あったウェアシステムは戦場で有効に機能したとは言い難いものであった。
主戦場ではノーマル型が主流であり、若干数のキャノン型がそれに混じる
程度に終わっている。キオ編(AG160年代)には後継機のアデルMk2が登場
しているが、劇中描写から見る限り原型機が持っていたウェア機構を廃止
してノーマルウェア(陸戦仕様、空間戦仕様)に絞った形で再設計した
ものだと伺える。どうしてこのような結果になったのだろうか。この疑問
について考察するとそこには軍上層部が現場を軽視した兵器開発、実戦配備
を行った結果。連邦軍内部に混乱をもたらした様子が見え隠れする。

セム編冒頭アルグレアスはテスト中のアデルを褒める発言をしている。
これは性能に関してだけだ。部隊運用レベルの話ではない。ハード(MS)と運用
現場(ソフト)での評価は不明だ。次期主力機を担うに相応しい性能を持つ
一方で一つの重大な弱点があった。それがウェアシステムだった。

ウェアシステムは手足を換装することで機体の武装・能力を「大きく」変化させ
多様な任務に投入できるメリットがある。しかし使用出来るウェアはMS一体
に付き必ず一つのみであり、未使用のウェアは基地ないし母艦の格納庫に保管
するしかない。そのため部隊運用レベル(一個小隊は最低三機)でウェアシステム
を扱うと大量の未使用ウェアが格納庫に死蔵される事を意味する。また修理用
パーツもそれぞれに用意する必要から従来機に比べると装備品、修理用パーツ類
に関する総点数を倍増させる結果を招いてしまう。ジェノアス系やシャルドール改
と違い、ウェア(手足)を単体で保管する必要性から専用の保管・整備ハンガーや
新しい整備システムの構築も必要とされ、整備部隊への負担が重くのしかかる。

またアデルを量産するに至り、ウェアなる専用装備も合わせて用意する必要から
別途新規に製造ラインを立ち上げる事になる。これはMS一体辺りのユニットコスト
増加に繋がり、軍事予算が拡大しない限りは何かを削って予算を確保する必要がある。
希望通りの予算が調達できない場合は生産の遅延を意味する。またこの予算問題
は軍の組織運営にも直接影響を与える危険性がある。

部隊を指揮する者達はウェアシステムの扱いに苦慮する事になる。高性能MSは必要だが
現場の要望しないウェアはデッドストック以外の何物でもない。恒常的な戦闘が
発生するため機体稼働率の維持は重要な問題であり、限られたスペースに多数の
ウェアを保管すれば必然と修理パーツのストック数を圧迫する事になる。戦闘が頻発
すれば最悪の場合修理部品が底をつく展開もありえる。
ウェアは汎用性を棄て、ある機能に特化したり、性能を極端に追及したものだ。
そのためバランスが悪く使い所が限定される物が多い。部隊の戦闘力を安定して
保つためにはそのような特化型より汎用性を維持した方が安全だ。また補給・整備
の観点からも運用機種(ウェア)の一本化は非常に合理的であり利点が大きい。
そのため指揮官達は出来る限りノーマルウェアとその修理パーツの確保に努める
事になったのだろう。当然これはアデルが配備される部隊すべてに付きまとう問題だ。
各部隊からの要求が殺到した場合、補給部署や軍需工場が対応できたかは定かでは
ない。

現場のパイロットにしてもウェアシステムは負担でしかない。各種ウェアを使いこなす
には相当な訓練が必要だ。従来まではMS一体分の操縦・戦闘技術をマスターするだけで
よかったが、アデルの場合はさらにウェア分が加算される事になる。擬似的に二体目、
三体目の操縦技術を学ぶ必要があるのだ。しかもこれは特化型装備なので使用頻度は
低い。限られたリソースや訓練時間を何に割り当てるかを考えた場合、従来機と同様の
ノーマル型に絞り込まれるのは必然であろう。

そのためベテランパイロット達の乗り換えは進まず。実戦投入されたアデルは様々
な要因からウェアシステムを積極的に使用せず、ジェノアスIIシャルドール改
同じように運用された。

以上の様にウェアシステムは集団レベルで扱った場合、メリットよりもデメリットの
方が多く。軍の組織運営を混乱させ悪戯に煩雑化させるだけに終わったのかもしれな
い。従来機との入れ替えも進まず、前線からは事実上のNOを突き付けられた格好で
あり予算の浪費も発生している。これら多くの問題を打開すべくウェアシステムを
廃止し従来機と同様の扱いやすさ、容易な整備性、安定した稼働率、生産性の向上、
さらにコストダウンを目指したのがアデルMk2だったのだろう。

AG150年代を舞台にした外伝漫画「追憶のシド」に登場する第七艦隊のMS部隊はなぜか
シャルドール改で統一されていた。一方でアセムの特務隊や海賊討伐の特命を受けた
ラーガン隊など極一部のみにアデルが配備されている。AG140年代に前線への配備が
指示されているにも関わらず、10年後も依然としてシャルドール改が主流という
不思議な状態になっている。これは先に記述したとおり機体稼働率や戦力の維持を
優先した結果、性能は劣るものの安定した運用が望めるシャルドール改を選んだと
見れる。

 ※ウェアシステムは極端に特化する事で始めて利点が生まれる。そのため小規模
  な機能強化には向かない。その部分はシャルドール改が担っている。
  また汎用性を維持しつつ高性能化を求める場合は既にGバウンサーが
  その地位を占めているためこの方向性での開発は進みにくい。
 ※HGジェノアスの説明書にはアデルの量産が始まった後もベテランパイロット
  達はジェノアスIIを使用したという記述がある。
 ※連邦軍のMS空母としての役割はダーウィン級宇宙戦艦が担っているが
  この艦艇のMS運用能力は既存のMS規格(ウェア未対応機)に沿っている。
  格納庫が狭いためアデルのような新規格への対応は難しく、ウェアシステム
  運用スペースを確保するため搭載機数を減らす必要があるだろう。

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