受動的なAGEシステムと能動的なマッドーナ工房

フリットの切り札であり、形見でもあるAGEデバイス。それを元に
作り上げたAGEシステムは強力な武器を生み出す無限の可能性を
秘めていた。だがこれほど便利でハイテクな装置を連邦軍上層部
は受け入れなかった。なぜなのだろうか?

一つはシステムとしてみれば非常に脆く、多数の致命的な脆弱性
を抱えてた点が上げられるだろう。AGEシステムは実戦での情報
収集を行い、ここから専用コンピュータによる対応手段の模索、
導き出された対応プランを元に高速形成機で現物を作り上げる
という仕組みとなっている。後はひたすらこの一連の動作を繰り
返して試行錯誤を積み重ね脅威への対応能力を高めるわけだ。

そんな仕組みの中で専用コンピュータのみ既存技術で用意出来ず。
現在使用できるのは過去に作られたオリジナルのみであり、複製も
不可能な状態となっている。万が一戦闘によって破壊される。または
構成部品が経年劣化などにより破損、故障した場合はAGEシステム
そのものが使用不能に陥る弱点があり。修理が現実的に不可能である
以上はいつまでこのシステムが稼働できるのか?という持続性の
問題が付きまとう。信頼性が低いのだ。

例え複製が可能だったとしてもその取り扱いにはまだ問題がある。
システムが生み出す対応プランはあくまで観測装置が検知した脅威
のみに限定されている。そのためAGEシステム搭載機が活動する
環境や状況、戦線に対応した装備のみが用意可能であり、それ以外
への対応能力は持ち合わせていない。地球圏で戦争を繰り広げる
中でこれはあまりに偏ってしまっている。搭載機を複数用意し各地へ
配備できればとりあえず上記問題は解決できる。しかしこれを実行
すれば瞬く間に多種多様な装備品が連邦軍内に出現する事を意味し、
"進化"という枝分かれによって各デバイス間の蓄積データを並列化する
のは難しい。コピーデバイスはそれぞれが独自発展を始め、蓄積
データの分裂が始まる。最初は小さな差でも時間が経つにつれより
大きな振れ幅となり完全に違う形へ変貌する。遠からず連邦軍という
組織の統一性、継続性を維持出来なくなる日が来るだろう。

またオリジナル一つのみに頼っていく選択を選べばどうだろうか。
この場合は連邦軍の兵器開発を一極集中化するため、敵の破壊工作
なり事故や戦闘など、何らかの理由でAGEデバイスが使用不可能に
なれば一挙に兵器開発能力を消失する問題が生まれる。これが早い
段階で起きた場合ならまた人の手で担う事は可能だろう。しかし長く
依存したとなれば技術者は仕事を奪われて存在しない。誰もその
穴を埋めることが出来ない。

この穴埋めに絡んだ事でもあるが、二つ目の問題は技術・兵器開発
能力の喪失であり、自主開発能力が育たない点だ。何を作ろうとその
開発工程、作業順序は全てAGEシステムに握られており、人間は主導権
を失っている。非常に受動的な状態であり、先を見据えた行動は取
れない。人はあくまで機械の下請け、下っ端の小間使いに成り
下がるのが関の山だ。機械によって人間の思考の制限、創意工夫、
知的探求の機会が奪われる形になり、これらを明け渡すと言う行為
の代償は取り返しの付かない物なのだ。

この道を選べば、人間は機械の作り出した現物を解析してコピーを
作る状態に留まるが、これも上手くいくかはわからない。AGEデバイス
ロストテクノロジーの塊であり、現在の技術者には思いもよらない
アイディアや技術を繰り出してくる恐ろしい存在だ。それだけに
人類(技術衰退した時代において)の理解を超越したものを提示する
可能性もあり。解析に失敗したり十分再現できない事もあり得る。

俯瞰して見れば人間に出来る事はノックダウン生産ライセンス生産
程度の事であり。それであってもAGEシステムと人類側の絶対的な技術
格差から来る量産品の性能低下は免れなかっただろう。
(格差が無いのならそもそもAGEシステムに頼る必要は無い)

上記に上げられる問題などから連邦軍の兵器開発は人の手で行われ、
AGEシステムと決別する結果になったのだろう。推進派であるフリット
やアルグレアスがこのシステムが抱える問題をどれだけ認識できたか、
出来たとしてどう対応するつもりだったのかは不明である。
(劇中描写を見る限り便利な機械や高性能兵器を過度に重視する一方、
 それに伴う周囲への影響。組織運営や人材育成などを軽視して
 いるように見える)

一方マッドーナ工房はAGEシステムとは対極の存在であった。オーナー
であるムクレド・マッドーナは一代でMS工房を起こし、AG115年には
地球圏一と言われるほどの技術・開発能力を会得していた。この時点で
ファクトリーシップを自前で保有し、軍用MSの量産やMSのカスタム、
オーダーメイド品の受注生産などを手広く行っている。
(これだけの規模の工房を維持しているとなると市場に占めるシェア
 が相当なものであると判断できる)

これだけの事が可能なのも彼(フリット編で55歳)が長年その分野で働き
腕を磨いた結果だ。蓄積されたノウハウと彼自身のポテンシャルは非常
に高く。ウルフに依頼されたGエグゼスを短期間(実質半日程度?)で完成
させ、さらに軍の標準装備品でもないビームサーベルまで用意し、AGE1
の情報を参考にドッズライフルの再現まで成功している。
その能力はMS開発に留まらず、個人的にプラズマ砲を試作して工房に
穴を開けたり、戦艦ディーヴァの大改造にも関与するほどであった。
フリット編当時に登場したシャルドールはMSの素体として重宝され、
多数のバリエーション機を生んだ。その運用期間は非常に長く、半世紀
は現役であった。

マッドーナ工房が物語全編に渡って登場し続け、連邦やヴェイガンに
遅れを取らなかったのも、自主開発の道を貫き通した結果だ。当然
ここはマッドーナ一人で運営できるわけではない。彼の元で多くの
人員が工房を支えている。彼らはここで学び、MS製造や開発に携わ
っていくことになる。工房が存続する限りは人材が育まれるわけだ。
これが工房の強みとなり、時代に取り残される事も無く常にMSと
技術、装備を世へ送り出せたのだろう。
(キオ編以降ではオーナーが他界しているようだが、工房そのものは
 従業員達によって維持されている)

 ※過去、映画やSF小説などでは人類が仕事を他人任せにした結果。
  自分では何もしない、出来ない状態に陥って衰退するケースがある。
  この場合、登場人物はすでに破滅した世界へ放り込まれるか、
  衰退を危惧して抵抗を試みるが…というストーリーだったりする。
  それぐらいAGEシステムの利用は危険性を伴うのだが、本作品
  でこのギミックを考案した際にどれほどそれについて考えら
  れていたのかは疑問が残る。なにせひたすら褒め上げていたの
  だから…。さらに言えば全自動で工業製品を作り出せるわけで
  これを民間へ転用できればその効果は第二次産業革命と言っても
  過言ではない結果をもたらす。人類はついに労働から解放され、
  社会は大きく変容するだろう。そう言い切れるぐらい様々な観点
  から問題のあるギミックだ。
 ※AGEシステムに依存すればデバイスが致命的弱点となる。それは
  映画スターウォーズに登場する要塞デス・スターの換気ダクト
  のようなものだ。
 ※創意工夫の剥奪は開発現場だけに留まらない。他にもMS
  パイロットの判断を鈍らせる結果を招くだろう。何せ苦戦
  するとAGEシステムが解決策をすぐに用意してくれるのだ。
  操縦技術を磨いたり努力する必要性が薄れ、堕落が始まる。
 ※劇中描写から判断する限りAGEシステムはあくまで観測した
  脅威への対応に留まり、量産を前提にした設計や生産性は
  考慮していない。そのため使える"兵器"を開発しても、量産
  に適さない事もあるだろう。
 ※マッドーナはアンバット攻略艦隊へドッズガンやビームサーベル
  を量産して送り届けている。これも新たに作り上げた新装備で
  ある。それを短期間で量産レベルに持ち込んでいるのは恐ろし
  い限りだ。この事実は工房の開発・量産能力の高さを示す証拠
  にもなる。
 ※工房の関与した技術などはGエグゼスとその際に用意されたビーム兵器。
  さらにこれの量産版。メガランチャー、Gエグゼスジャックエッジが
  装備する実体刃、Gサイフォスのヒートソード。明示はされていないが
  状況から推測するとヴェイガン製「見えざる傘」の修復など。
 ※もしドッズライフルが開発されなかったとしても、マッドーナ
  は自前でプラズマ砲(メガランチャー?)を自作している。対UEで
  大火力兵器の必要性が明るみ出れば、これを転用するか小型化を
  目指してバズーカサイズのビーム兵器を実用化していただろう。
 ※連邦からすればAGE2消息不明事件でAGEシステムへの依存がいかに
  危険であるか知ったのだろう。

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