プロジェクト・エデンから見るイゼルカントの狂気

【大いなる計画の真相】
 ヴェイガン首領イゼルカントの考える
 プロジェクトエデンは、地球連邦から
 地球を取り返し、火星移民者の末裔を帰還
 させることにあるように見えた。
 しかしその実態は現人類を生贄にした
 人種改造計画であり、彼が思い描く理想郷の
 ための礎であった。

 彼はなぜこのような狂気の計画を思い立ち
 実行に移したのだろうか?
 きっかけは一人息子のロミとの死別であるが、
 その死因は火星に蔓延する死病だ。これは
 彼ら火星移住者の祖先が受けた呪いであり、
 人として生きることの適わない証でもあった。

 人口増加対策や資源採掘のため火星移住計画
 マーズバースデイが実行されるものの、調査の
 不備によって失敗に終わる。マーズレイなる
 殺人的磁気嵐に曝された先行移住者達は
 地球への帰還を拒絶され、死神が巣食う僻地に
 置き去りにされてしまった。

 不治の病が蔓延する中、政府から見捨てられ
 帰る場所もない。コミュニティの崩壊を押し
 留めて彼らは火星独立国家ヴェイガンとして
 再起し、セカンドムーンを建造する。
 しかし不治の病によって人々が無作為に死に
 逝く世界は生き残った者の心を蝕み、感情の
 欠けた歪な社会を形成した。

 それでも彼らは生きる道を選んだ。その理由が
 地球への復讐を願い、帰還を願ったからなのか、
 それとも生者の世界にある地獄の中でも抗おうと
 したのか。それは誰にも分からない。
 感情が失われるような環境であり、国家体制も
 全体主義的な雰囲気を感じさせるヴェイガンが
 無機質な国作りをせず、地球圏に近い町並みや
 貨幣制度を有しているのは少しでも人間らしく
 振舞っていたいという思いからなのかもしれない。

 そしてある日、ヴェイガンにとって転機が訪れた。
 首領イゼルカントがエデン計画を立ち上げ、地球
 への帰還に向け行動を開始したのだ。
 国民にとってそれは長い夜の夜明けだったのかも
 しれない。昔話で語り継がれる夢物語も同然の
 地球への帰還は国民が一丸となって行動した。

 しかしそこにはイゼルカントの失意と絶望、そして
 一つの希望が塗り込められていた。彼は首領とし
 ての立場からそれに相応しい知識や思想を持って
 いた。そのためロミの死を切っ掛けに人類社会
 全体の改革を意識し出した。

 AG80年代の地球圏は安定しており、一見平和な
 世界に見える。しかしその実態は人類の負の側面、
 歪みを火星圏の移住者に押し付けて得た結果だ。
 例え平和裏に地球へ帰還できても、均衡していた
 世界は否応なく動き、遅かれ早かれ対立が始まる
 だろう。ヴェイガンは建国経緯から地球帰還という
 目標で一致団結できるが、これが果たされたなら
 そこから先は各々が自由に動き出し、まとまることは
 出来ない。地球圏でコミュニティは細分化し、権利の
 対立から旧時代のコロニー国家戦争を再発させる
 こともあり得る。

 歴史を紐解けば人類は常に争いに明け暮れていた。
 確かに平和な時代はある。しかしそれは長い時間
 で見れば、ほんの瞬きをする瞬間に過ぎない。
 いかに優れた施政者が地球圏を納めようと、いずれ
 寿命が来てこの世を去る。平和の持続は不可能と
 判断した。

 そこで彼は決断した。繰り返される愚かな歴史に
 終止符を打つ。それを成せるのは自分だけであると
 考えたのだ。そのためには進歩しない現人類は
 相応しい存在ではなく、人類が持つ欠点を克服した
 新人類の誕生に希望を抱いた。遺伝子工学による
 デザインベイビーではなく、戦争という環境を
 利用したストレスによる"品種改良"によって進化を
 促そうとした。すでにXラウンダーという
 特異な存在がある。なら自分の考えるエデンの民が
 生まれることも可能だろうと希望を見出した。


 この時点でイゼルカントは狂気に取り付かれていた。
 常人なら到底思いつかない非人道的な方法で世界を
 平和に導こうなどまともな精神では思いつかない。
 もっともヴェイガンの民は感情を失うと語られて
 いる。だからこそこの異常な計画を考え、実行へ
 移せたのかもしれない。

 この計画は人類全てが被験者であり、当然ヴェイガン
 内部にも悟られてはいけない。このため彼はキオに
 全容を語るまでの約80年、たった一人で世界を騙し
 続け、戦争をコントロールして人々を死に追いやった。
 ヴェイガンの悲願である地球帰還、これを実現するべく
 国民を導く現代のモーゼ。しかしその実態は死神であった。
 (ギーラが真相を知らされていたかは不明)

 そんなイゼルカントにとって計画外の出来事が起きる。
 死んだロミの生まれ変わりと見間違うような子供キオが
 現れたのだ。この時一度失った感情を僅かに取り戻した
 のだろうか、部下の失敗に眉の一つも動かさないような
 振る舞いだった彼が声を荒げ、自身の考えを必死に訴えた。
 しかしそれは感情を持ったキオにとっては理解しがたい
 ものであり、拒絶という形で終わる。

【最後の行動へ向けて】
 イゼルカントはキオへの説得で錯乱状態に陥った直後
 でも、部下への通信はすぐ"首領"の顔へ戻った不気味
 な側面が見え隠れする。

 最後の選別においてヴェイガン軍は意図的に壊滅へ
 追い込まれる可能性が高い。また反乱への備えから
 ガンダムレギルスはヴェイガン製MSの操縦権を
 奪う機能が搭載されているかもしれない。

 デシルが搭乗した機体に搭載された遠隔操作システム。
 旧時代に数百機のユニットを操った技術。これらが
 どう利用されるのかは今後の気になる点である。

 遠隔操作システムの使用条件がXラウンダーである
 事かは不明だが、イゼルカントはデシル以上の好条件だ。
 さらに擬似Xラウンダー装置のミューセルも全軍に
 標準配備されている。これがMSをジャックするため
 の布石なら恐ろしい結果が待ち受けているだろう。

【余談】
 キャプテンアッシュのダークハウンドとレギルスの
 戦闘シーンで使用されたBGMは「狂気の攻撃」で
 偶然なのか曲名が状況と合わせてある。

 この曲はデシルの戦闘シーンで多用されており、
 アンバット戦やノートラム戦においてマジシャンズ
 8のMSを遠隔操縦した場面でも使われている。
 
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