不殺から始まるキオの物語

 キオはフリットの英才教育によりMS操縦が得意な
 子供だ。そう子供なのだ。彼はまだ人殺しの手解
 きを受けていないし、実感も抱いていなかった。
 そのため捕虜生活はキオに大きな衝撃を与えた。

 これまで気兼ねなく破壊できたロボットの中に同じ
 人間。それも火星圏に取り残された移住者の末裔達
 がいる事を知った。そしてセカンドムーンでの体験
 から彼は今まで通りに引き金を引けなくなってしまった。

 不治の病に蝕まれる社会、地球帰還をスローガンに
 戦争を仕掛ける国家。地球暮らしには想像のつかない
 世界が広がっていた。そして首領イゼルカントの明かした
 計画はキオにとって信じ難いものであった。

 この一件でキオは始めて戦う理由、成すべき事を考え始めた。
 エデン計画を知った以上は止めるべきだ。しかし60年以上
 も続く戦争を止める手立てや力が無い事もはっきりしていた。
 (有力者たる祖父に話した結果は散々だった)

 彼が答えを見つけ出せない一方で戦争は継続し、敵は
 次々と襲来する。これを防がなければ明日は無い。
 答えを見つけ出し、戦争を終らすためにもキオは戦いの
 道を歩むしかなかった。しかし世界の事実に触れた
 ため相手を殺すことに踏み切れない。そのため不殺
 という妥協点に至った。

 キオにとってこれは自分の意思で戦いに挑んだ最初の
 一歩だ。これで終わりではない、終戦へ進むための
 過程に過ぎない。フリットがアンバット戦へ参加して
 軍人への道を突き進んだように、キオもまた自らの足
 で道を歩むことになる。ルナベース奪還作戦からは
 その始まりの話なんだろう。

 ※
  不殺に至る流れをシンプルに言えば、温室育ちで
  加工食品しか食べたことの無い子供が、加工食品の
  製造現場を見学してそれを食べれないようになった
  だけの事だ。至って単純明快だ。キオは割り切れなかった。
  
 ※
  フリットはアンバット戦で拳銃を携帯していたが、
  孫のキオに拳銃の扱いを習得させた様子は無い。
  その手の身近な道具による殺しや護身術は教えず。
  ひたすらMSの操縦訓練に明け暮れていたようだ。
  後々軍へ入隊させ、そこで必要な事を勉強させる
  つもりだったのだろうか。

  救世主育成計画はヴェイガンの一斉蜂起により
  大きく狂う事になった。そのため兵隊としての
  メンタル面を鍛えることが間に合わず初陣となった。
  攻撃が数年遅かった場合、キオは敵が人間だろうが
  躊躇せず発砲できるように教育されていたかも

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