欠陥兵器だったディグマゼノン砲とキオ編の戦局について

キオ編でビッグリングを破壊し、見事地球への侵入路を切り開いた宇宙要塞
ラ・グラミス。そこに搭載された巨大ビーム兵器ディグマゼノン砲は連邦軍
に衛星軌道上からの狙撃を警戒させるほどの存在であった。しかし連邦側の
大規模反抗作戦では地球へ殺到する艦隊に目立った攻撃をせず、あっさり
制宙権を譲り渡したようだ。その後はどこかへ雲隠れをし続け、ルナベース
攻防戦でもこの要塞は静観を守っていた。ビッグリング攻撃以降、その動向
が確認されたのは地球圏へ到着したセカンドムーンに合流した時のみであった。

今回は本編描写から推測するラ・グラミスの性能、機能、武装などについて。

ラ・グラミスは見えざる傘を装備した移動要塞だが、そのステルス性は連邦の
探知システムを突破できるほどの性能らしい。航行能力も申し分なく、艦隊
と連携した作戦行動が可能なようだ。一方で全長8kmに渡るという途方も無い
巨大さを誇るわりには拠点としての能力は低いように見え。特異な形状が仇と
なってダウネス級に比べると居住性は劣り、戦略物資の備蓄能力、戦艦の係留
能力は無いものと推測される。

要塞は多数のユニット群を組み合わせた構造で構成され、他に例を見ない
珍しい設計になっている。構造体は分離合体、形状変化やユニット群の追加
による全長の延長も可能らしい。さらにどういう理屈なのかセカンドムーン
への接続によってディグマゼノン砲のエネルギー充填も出来る。ただし分離
合体、形状変化を駆使してもビーム砲は一門のみであり、攻撃能力そのものに
大きな変化は無い模様だ。

アニメ終盤で判明した事だが、ディグマゼノン砲の発射間隔は非常に長い様子
で、非常手段としてセカンドムーンからエネルギー供給を受けないと短時間
での次弾発射は不可能な模様。ビーム砲の性能はその見た目から超長距離狙撃
が実行できる戦略兵器に思えるが、ビッグリング攻撃時の位置関係から見た目
に反して有効射程は長くないのかもしれない。

宇宙要塞と定義されているが、ものとしてはディグマゼノン砲の運用に全てを
賭けている様子だ。自前の防御能力は無く、直援MS隊や護衛艦隊が無ければ
無防備も同然であり、非常に脆い要塞である。このようにして考えるとこの
要塞は連射の効かない大型ビーム砲一門で何をしていたのか。

初陣以降はビッグリング破壊で見せ付けたその攻撃力を活かし、連邦地上軍
を威嚇していたと推測される。それによってヴェイガン降下部隊が自由に
動き回れる状況を作った。連邦軍からすれば衛星軌道上に張り付いた敵要塞
による狙撃(実際にその能力があったかは怪しい)を恐れ、部隊の集結や大部隊
の行動を控える流れになる。後に連邦宇宙軍を動員した大規模反抗作戦が実施
されるがこの時地球へ殺到する宇宙艦隊に対してラ・グラミスは戦わずに逃げた。
これは妥当な判断だろう。武装は巨大ビーム砲一門のみであり、連射も不可能。
第一射でいくらかの打撃は与える事ができるだろう。しかし第二射を撃つ余裕
があるだろうか?そしてその攻撃で敵艦隊を殲滅できるだろうか?要塞の能力
を鑑みれば長期戦は敗北を意味する。短期決戦で勝利が望めないなら逃げの
一手が最善だ。連邦は主力部隊を差し向けた。連中にすればラ・グラミスは
地球奪還のファーストステップとして必ず叩き潰す必要がある。そのため見逃
すという選択肢は無いだろう。いくら姿を消せるといっても攻略部隊を差し向
けられ、包囲網が敷かれてしまえば意味は無い。だからラ・グラミスは戦わず
に撤退したのだろう。その後は来るべき最終決戦まで戦力を温存するべく
ひたすら逃げ回っていたのかもしれない。

 ※ラ・グラミスはその能力から積極的に実戦へ投入されず、最初に強大な
  攻撃力を啓示して相手を威圧する方向で運用されたようだ。
 ※まるで超巨大な自走砲のようだ。過去に存在した大型列車砲のように
  一回辺りの攻撃は凄まじいものの、それを運用するための手順、準備が
  大規模化して動きにくい存在になったのと似ている。
 ※ビーム砲は多数のビームを一点に集約して撃ち出す特殊な方法を
  用いており、他のビーム兵器に比べると収束率で劣っている可能性
  がある。このような形になったのもヴェイガンに超大型ビーム砲を
  作る技術が無く、多数の小型ビームを束ねる事で同等の物を得ようと
  頑張った結果なのかもしれない。
 ※探知システムを突破しているが、連邦軍内部に潜入したスパイによる
  破壊工作(サイバー攻撃)の可能性もある。
 ※ルナベース攻防戦にラ・グラミスが参戦した場合、連邦軍の敗北は
  確実であった。しかしゼハートは援護要請を出さなかった。
  彼我の戦力差からその必要が無いと言うのは分るが、長期的に考えれば
  戦力は出来るだけ無傷で温存したいところだ。そのため効率的に敵を
  倒す事は考えるだろうし、そこでディグマゼノン砲の使用を検討する
  のはごく自然な流れだ。これが出来なかったのは砲になんらかの制約
  があったか、それとも位置関係から射線の確保が間に合わない。または
  連絡手段が無かったと推測される。
 ※砲撃を受ける直前のビッグリング管制室のモニターには螺旋状(DNA?)の
  物体が表示されているが、ラ・グラミスとの関係性は不明。
 ※最終決戦でセカンドムーンからエネルギー供給を行わなかった場合、
  第二射が可能だったのかは怪しい。
 ※ラ・グラミスのスケールについては月刊モデルグラフィックス11号にて
  言及あり
 ※ディグマゼノン砲のサイズはビッグリングとの比較から直径6km前後
  くらいか。正確には不明だが超大型サイズであることに違いは無い。
  攻撃シーンを見ると微妙に狙いが逸れているように見えるので射撃
  精度は高くないのかもしれない。
 ※一会戦辺り何発撃てたのかは謎であり、せいぜい一発が良い所だった
  のではないだろうか。発射間隔の長さから二発目を撃てる頃には戦場
  の流れに大きな変化が起きて撃つ機会を逃している可能性が高い。
 ※使えそうで使えない微妙な性能だが、これもイゼルカントの真の目的
  が原因なのかも。

【関連記事】
 劇中描写から見るヴェイガン軍の問題点
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20130211/1360580751

 ヴェイガンの運用する戦艦について
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120929/1348873141

 ラ・グラミス攻略戦序盤の動き
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120916/1347795134

ディーヴァの人工重力ブロックはどこにあるのだろうか

アニメではディーヴァ内部に人工重力ブロックが装備されているようだ。
しかしどこにあるかまでは分らない。そこで過去にその位置を探るため
に描いた落書きが下の物である。アニメでは艦首からカタパルト→
格納庫(大)→格納庫(中)→格納庫(小)?と続いている構造で、MSハンガー
は格納庫(大)、AGEビルダーは格納庫(中)に設置されているようだ。

格納庫全体は格納庫(中)より横幅が変更されており、上から見ると
凸型に見える。重力ブロックはリング型らしいのでこれを設置する
ためには相当のスペースを要するが、ディーヴァそのものは変形部分
が多いため、これと干渉せずに埋め込むのは難しい。あるとすれば
格納庫内の一段と横幅が狭い部分をぐるっと囲う形でリングを設置
するしかないと思われる。なんにせよディーヴァの中はかなり凄い
構造になってそうだ。

※アニメ内の描写を思い出しながら描いたため外観や細部は一致しない。
 ドッズライフル入りコンテナやAGE2(ストライダー)が射出された
 艦底部ハッチへの移動方法は未確認。
※格納庫(大)の両側には多数のパネルが見える。もしかするとこれは
 ウェアや部品などを入れる場所かもしれない。
※AGEビルダーの奥に高さの低い小さな扉が見える。しかし劇中一度も
 開いていないので奥に何があるかは不明。設計の近いバロノークには
 武器庫があるらしいので、それなのかも。
※リングの位置関係は厳しく、前に動かすと外部装甲と格納庫の壁の
 挟まれる形でどんどんリングの厚さが薄くなる。後ろに動かすと
 今度は二基あるメインエンジンと干渉する。近すぎると騒音問題も
 あるし難しいところだ。
※ゲームをプレイすれば判明するかもしれない事だが、あいにく私は
 やっていない。
※リング直径であるとか、1G程度を再現するのに必要な回転数だとかは
 ここでは気にしていない。

アセム編とキオ編の間で起きていた連邦の疲弊と国民の飢餓

この時代についてはアニメでほとんど触れられていないため事実上
闇のベールに覆われている。外伝漫画で僅かに描写されたAG151年の
地球圏は戦争継続派であるフリットによって終りなき戦争に明け暮
れていたようだ。

第一巻の第一話を見ると、地球圏に点在するコロニーでは食糧危機が
発生していたようだが政府の対応が不十分か、はたまた無かったようだ。
このため住民が自発的に食料を確保する有様で、宇宙に暮らす人々は
戦争と餓死の現実にさらされていた。この食糧確保も決して楽なもの
ではなく、民間人が自前で輸送船を出して遠方に出向く必要があった
ようだ。ヴェイガンや海賊による襲撃の可能性があったものの、頼み
の綱である連邦軍もまた長引く戦争で荒み、市民へ銃を向け金品を
巻き上げようとする有様になっていた。

AGE世界のコロニーは内部に巨大な農業ブロックを格納した特長がある。
食糧供給には随分と余裕がありそうだがこの時代にはそれが崩壊していた。
これにはコロニー難民の存在があったのだろう。フリット編のエンジェル
を筆頭に地球圏のコロニーは常にヴェイガンに襲われている。戦火に
よって故郷を追われた人々は生き残ったコロニーへ逃げ込む事になるが、
当然移住先にも許容量というものがある。水も空気も食料も土地も全て
有限だ。自給自足、循環機能の限度を超えたならあとは破綻して、その
分のしわ寄せが住民に降りかかる事になる。水や食糧の配給があった
としても、それが必要分を満たせたかは怪しい。

戦局については膠着状態に陥っており、アセム編の頃より泥沼化が
進んでいた。連邦軍は攻勢を強めるヴェイガンへの対応に手一杯で、
火星圏への討伐艦隊派遣などは到底不可能な状態だった。アセム
で実用化されたヴェイガンのステルス装置「見えざる傘」を探知する
ための早期警戒システムは十分機能していないようで、第七艦隊が奇襲
を受けたり、コロニー「ミンスリー」への侵入を許している。

激化する宇宙での戦争、それに伴うコロニー難民の発生と食糧不足問題。
戦争勝利のための軍拡路線。様々な要因が積み重なり連邦政府への不満
が高まった時代だったと推測される。

そんな時代で打倒連邦を掲げ、真っ向から戦いを挑もうとする組織が
存在した。それが宇宙海賊ビシディアンであった。連邦の不正に立ち向かう
元特殊部隊出身者であるキャプテン・アングラッゾへ期待する者は多く。
かの組織を支援した人物や組織には退役軍人を始め、かつてフリット
に戦ったラクト・エルファメルやマッドーナ工房が名を連ねた。戦乱に
疲弊する世を見て、少年時代のフリットを知る者達が心中何を思っていた
かは分らない。

 ※漫画内でのフリットは総司令の地位にあり、第七艦隊の司令には
  アダムス・ティネルが着任している。
 ※当時の軍内部は一旦綱紀粛正が実施されたものの、それ以前より
  一層悪化していたようで、第七艦隊こそ規律は維持されていたが
  末端の部隊は不正が横行しており、民間船舶への略奪が恒常化
  していた。一方でこれに対するビシディアンの介入行動も活発化
  するも、現場部隊は不正の発覚を恐れ上層部には虚偽の報告を行い、
  略奪者はビシディアンであると発表していたようだ。
 ※公式発表により略奪者と認識されていたビシディアンだが
  第七艦隊がヴェイガンに襲われているなら助けに入るなど、決して
  非情な集団というわけでもなかった。そのため報告との食い違いに
  アダムスは驚きを隠せなかった。
 ※介入行為の開始時期は不明だが、ウィービックが語るところに
  よればAG151年の段階で民間船163隻(乗員約2000)を救ったそうだ。
 ※これらから見ると既にフリット総司令による軍の掌握は失敗に
  陥っており、組織統制は半ば崩壊していた模様。
 ※当時のビシディアンは初代首領が率いている。彼の目標は腐った
  連邦を叩き潰す事であり、そのために約30年ほど戦い続けている。
  時系列からすればクーデター前から活動しており、フリットによる
  粛清があった後もその目標は変わっていない。
 ※この時代のヴェイガンは主戦場を宇宙と定めたのか、連邦艦隊への
  攻撃やコロニー制圧作戦を積極的に行っている。
 ※ミンスリーはこの時代も中立を維持したのか、それとも別の要因がある
  のかは分らないが、ここの防衛を担う部隊は連邦軍ではないようで
  「警備隊」を名乗っていた。他にも個人が私設部隊を用意して敵の
  襲来に備えている。
 ※早期警戒システムはレーダー衛星を大量に投入、維持して初めて
  有効に機能する。そのため平時ならまだしも敵味方が入り乱れる
  宇宙戦争で扱うには非常に難しいものだ。衛星群を展開しても早い
  段階で破壊対象になり、無力化されたものと推測できる。
 ※外伝漫画の主人公ウィービックが少年時代に住んでいたコロニー
  も襲撃され、住民が脱出する様子が僅かに描写されている。

【関連記事】
 追憶のシド(四話まで)を振り返る
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120428/1335630210

 マッドーナ工房がビシディアンに協力した理由?
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20121121/1353497205

 フリットに人生を狂わされた人々。ジラード・スプリガン
 はそれを象徴する一人だったのか
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20130210/1360512322

 歴史の表舞台から去ったエウバのラクト。彼の願った未来とは
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20130214/1360859427

 ビシディアンで戦った無名の戦士達とアセムの決断
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20130308/1362758581

受動的なAGEシステムと能動的なマッドーナ工房

フリットの切り札であり、形見でもあるAGEデバイス。それを元に
作り上げたAGEシステムは強力な武器を生み出す無限の可能性を
秘めていた。だがこれほど便利でハイテクな装置を連邦軍上層部
は受け入れなかった。なぜなのだろうか?

一つはシステムとしてみれば非常に脆く、多数の致命的な脆弱性
を抱えてた点が上げられるだろう。AGEシステムは実戦での情報
収集を行い、ここから専用コンピュータによる対応手段の模索、
導き出された対応プランを元に高速形成機で現物を作り上げる
という仕組みとなっている。後はひたすらこの一連の動作を繰り
返して試行錯誤を積み重ね脅威への対応能力を高めるわけだ。

そんな仕組みの中で専用コンピュータのみ既存技術で用意出来ず。
現在使用できるのは過去に作られたオリジナルのみであり、複製も
不可能な状態となっている。万が一戦闘によって破壊される。または
構成部品が経年劣化などにより破損、故障した場合はAGEシステム
そのものが使用不能に陥る弱点があり。修理が現実的に不可能である
以上はいつまでこのシステムが稼働できるのか?という持続性の
問題が付きまとう。信頼性が低いのだ。

例え複製が可能だったとしてもその取り扱いにはまだ問題がある。
システムが生み出す対応プランはあくまで観測装置が検知した脅威
のみに限定されている。そのためAGEシステム搭載機が活動する
環境や状況、戦線に対応した装備のみが用意可能であり、それ以外
への対応能力は持ち合わせていない。地球圏で戦争を繰り広げる
中でこれはあまりに偏ってしまっている。搭載機を複数用意し各地へ
配備できればとりあえず上記問題は解決できる。しかしこれを実行
すれば瞬く間に多種多様な装備品が連邦軍内に出現する事を意味し、
"進化"という枝分かれによって各デバイス間の蓄積データを並列化する
のは難しい。コピーデバイスはそれぞれが独自発展を始め、蓄積
データの分裂が始まる。最初は小さな差でも時間が経つにつれより
大きな振れ幅となり完全に違う形へ変貌する。遠からず連邦軍という
組織の統一性、継続性を維持出来なくなる日が来るだろう。

またオリジナル一つのみに頼っていく選択を選べばどうだろうか。
この場合は連邦軍の兵器開発を一極集中化するため、敵の破壊工作
なり事故や戦闘など、何らかの理由でAGEデバイスが使用不可能に
なれば一挙に兵器開発能力を消失する問題が生まれる。これが早い
段階で起きた場合ならまた人の手で担う事は可能だろう。しかし長く
依存したとなれば技術者は仕事を奪われて存在しない。誰もその
穴を埋めることが出来ない。

この穴埋めに絡んだ事でもあるが、二つ目の問題は技術・兵器開発
能力の喪失であり、自主開発能力が育たない点だ。何を作ろうとその
開発工程、作業順序は全てAGEシステムに握られており、人間は主導権
を失っている。非常に受動的な状態であり、先を見据えた行動は取
れない。人はあくまで機械の下請け、下っ端の小間使いに成り
下がるのが関の山だ。機械によって人間の思考の制限、創意工夫、
知的探求の機会が奪われる形になり、これらを明け渡すと言う行為
の代償は取り返しの付かない物なのだ。

この道を選べば、人間は機械の作り出した現物を解析してコピーを
作る状態に留まるが、これも上手くいくかはわからない。AGEデバイス
ロストテクノロジーの塊であり、現在の技術者には思いもよらない
アイディアや技術を繰り出してくる恐ろしい存在だ。それだけに
人類(技術衰退した時代において)の理解を超越したものを提示する
可能性もあり。解析に失敗したり十分再現できない事もあり得る。

俯瞰して見れば人間に出来る事はノックダウン生産ライセンス生産
程度の事であり。それであってもAGEシステムと人類側の絶対的な技術
格差から来る量産品の性能低下は免れなかっただろう。
(格差が無いのならそもそもAGEシステムに頼る必要は無い)

上記に上げられる問題などから連邦軍の兵器開発は人の手で行われ、
AGEシステムと決別する結果になったのだろう。推進派であるフリット
やアルグレアスがこのシステムが抱える問題をどれだけ認識できたか、
出来たとしてどう対応するつもりだったのかは不明である。
(劇中描写を見る限り便利な機械や高性能兵器を過度に重視する一方、
 それに伴う周囲への影響。組織運営や人材育成などを軽視して
 いるように見える)

一方マッドーナ工房はAGEシステムとは対極の存在であった。オーナー
であるムクレド・マッドーナは一代でMS工房を起こし、AG115年には
地球圏一と言われるほどの技術・開発能力を会得していた。この時点で
ファクトリーシップを自前で保有し、軍用MSの量産やMSのカスタム、
オーダーメイド品の受注生産などを手広く行っている。
(これだけの規模の工房を維持しているとなると市場に占めるシェア
 が相当なものであると判断できる)

これだけの事が可能なのも彼(フリット編で55歳)が長年その分野で働き
腕を磨いた結果だ。蓄積されたノウハウと彼自身のポテンシャルは非常
に高く。ウルフに依頼されたGエグゼスを短期間(実質半日程度?)で完成
させ、さらに軍の標準装備品でもないビームサーベルまで用意し、AGE1
の情報を参考にドッズライフルの再現まで成功している。
その能力はMS開発に留まらず、個人的にプラズマ砲を試作して工房に
穴を開けたり、戦艦ディーヴァの大改造にも関与するほどであった。
フリット編当時に登場したシャルドールはMSの素体として重宝され、
多数のバリエーション機を生んだ。その運用期間は非常に長く、半世紀
は現役であった。

マッドーナ工房が物語全編に渡って登場し続け、連邦やヴェイガンに
遅れを取らなかったのも、自主開発の道を貫き通した結果だ。当然
ここはマッドーナ一人で運営できるわけではない。彼の元で多くの
人員が工房を支えている。彼らはここで学び、MS製造や開発に携わ
っていくことになる。工房が存続する限りは人材が育まれるわけだ。
これが工房の強みとなり、時代に取り残される事も無く常にMSと
技術、装備を世へ送り出せたのだろう。
(キオ編以降ではオーナーが他界しているようだが、工房そのものは
 従業員達によって維持されている)

 ※過去、映画やSF小説などでは人類が仕事を他人任せにした結果。
  自分では何もしない、出来ない状態に陥って衰退するケースがある。
  この場合、登場人物はすでに破滅した世界へ放り込まれるか、
  衰退を危惧して抵抗を試みるが…というストーリーだったりする。
  それぐらいAGEシステムの利用は危険性を伴うのだが、本作品
  でこのギミックを考案した際にどれほどそれについて考えら
  れていたのかは疑問が残る。なにせひたすら褒め上げていたの
  だから…。さらに言えば全自動で工業製品を作り出せるわけで
  これを民間へ転用できればその効果は第二次産業革命と言っても
  過言ではない結果をもたらす。人類はついに労働から解放され、
  社会は大きく変容するだろう。そう言い切れるぐらい様々な観点
  から問題のあるギミックだ。
 ※AGEシステムに依存すればデバイスが致命的弱点となる。それは
  映画スターウォーズに登場する要塞デス・スターの換気ダクト
  のようなものだ。
 ※創意工夫の剥奪は開発現場だけに留まらない。他にもMS
  パイロットの判断を鈍らせる結果を招くだろう。何せ苦戦
  するとAGEシステムが解決策をすぐに用意してくれるのだ。
  操縦技術を磨いたり努力する必要性が薄れ、堕落が始まる。
 ※劇中描写から判断する限りAGEシステムはあくまで観測した
  脅威への対応に留まり、量産を前提にした設計や生産性は
  考慮していない。そのため使える"兵器"を開発しても、量産
  に適さない事もあるだろう。
 ※マッドーナはアンバット攻略艦隊へドッズガンやビームサーベル
  を量産して送り届けている。これも新たに作り上げた新装備で
  ある。それを短期間で量産レベルに持ち込んでいるのは恐ろし
  い限りだ。この事実は工房の開発・量産能力の高さを示す証拠
  にもなる。
 ※工房の関与した技術などはGエグゼスとその際に用意されたビーム兵器。
  さらにこれの量産版。メガランチャー、Gエグゼスジャックエッジが
  装備する実体刃、Gサイフォスのヒートソード。明示はされていないが
  状況から推測するとヴェイガン製「見えざる傘」の修復など。
 ※もしドッズライフルが開発されなかったとしても、マッドーナ
  は自前でプラズマ砲(メガランチャー?)を自作している。対UEで
  大火力兵器の必要性が明るみ出れば、これを転用するか小型化を
  目指してバズーカサイズのビーム兵器を実用化していただろう。
 ※連邦からすればAGE2消息不明事件でAGEシステムへの依存がいかに
  危険であるか知ったのだろう。

【関連記事】
 ガンダムAGE1開発計画とその後
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120617/1339900463

 ウェアシステムが抱える重大な欠陥とアデルMk2の開発経緯
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20130122/1358874006

アセム編の裏に権力闘争の影あり?

セム編で起きた事と言えビッグリングとノートラム防衛戦だろう。
前者はヴェイガンの地球侵入を阻止するための最終防衛ラインを
支える最重要拠点、後者は連邦軍の兵器製造を担う大規模軍需工場だ。

攻め込まれた位置や、狙われた拠点の重要度から考えると連邦は
いかにも窮地に追い込まれたという風に見える。しかしアセム編を
通してうかがい知れる戦局は一進一退の攻防らしく連邦の敗北が
現実になってきたとか濃厚になってきたとは言い難い。
そして攻め込んだヴェイガン艦隊の規模も小さく。一時的に数個の
拠点を落とせる事は可能でも同じ場所に恒久的に留まるのは難しい
状態であった。(ノートラム占拠の目的からもそれは明らか)

このように考えるとアセム編の二大決戦は一見すると戦争の勝敗
を左右する戦いではあったものの、総兵力規模で見たり、投入された
戦力で考えると実際にその結果にたどり着いたかは疑問である。

ではあの戦いは一体なんだったのか?という事になるが、イゼルカント
にしてみればそのまま勝っては困るので、中途半端な戦力を送り込んだ
のだろう。対する連邦は内通者であるフロイ・オルフェノア首相が
持ち前の情報網から敵の襲来を予見し、意図的に敵を引き込んだため
あのような二大決戦が起きたのかもしれない。

オルフェノア首相は裏で敵と内通し何かをやっていたようだが、そんな
彼からすれば強硬派のフリットは邪魔な存在だった可能性が高い。
ヴェイガンと渡り合うためには軍事力は必要だ。その点フリットは軍の
近代化に貢献しているので良い。しかしその多大な貢献の結果、彼の
軍内部での発言力、影響力は非常に大きなものになった。既にビッグ
リング基地司令にまで上り詰め、次期主力MSであるアデル開発にも関与
している。さらにアンバット攻略戦にも参加した経歴を持ち、連邦が
事実隠蔽を図った不都合な真実まで知っている。

戦時下での軍の発言力は高い、そんな組織で影響力を日増しに拡大する
フリットは遅かれ早かれオルフェノアの敵として立ちはだかる可能性が
高い。そのため彼を危険視した首相は一計を案じ、敵艦隊を意図的に
彼の元へ呼び込み共倒れを狙った可能性がある。例え本人が戦死しなく
とも敵艦隊の規模からすれば大被害は免れない、そうなればあとは
責任問題で無理やり更迭する事が出来る。普通ならどう転んでもフリット
を権力の座から追い出せると踏んでいた。

しかし彼の指揮する艦隊は大きな損害を被る事も無く、敵を追い返す事に
二度も成功した。そのため彼の策略は失敗に終わった。その後オルフェノア
は不正事実を掴んだフリットによって逆に権力の座から引き摺り下ろされる。

フリットのクーデターについて彼が単独で作戦を実行するのは不可能だ。
その裏には彼の行動に賛同、支援した軍部の存在が考えられる。それらは
クーデター後の軍政でも重要な位置にいただろう。この存在はキオ編で
軍上層部にAGEシステムが受け入れられなかったとの発言からその
存在が推測できる。元々フリット編の頃から連邦軍は組織として統一
された状態とは言い難く、地方基地が独自にMSを開発していたり、ノーラ
が襲撃されているのに立ち寄っていた友軍が逃げ出すなど各部隊での独自
行動が目立ち、半ば軍閥化が始まっていた。

クーデターの協力者にしても、戦争の早期解決を願い内通者一掃のために
協力した将校や、私利私欲を望んで足枷となる中央政府の排除を目論んで
参加した者達がいたのかもしれない。それがAG150年代の混乱期を生み、
ビシディアンの活動を活発化させ、様々な思惑からクーデターに加わった
者達が軍政を執り行ったため戦争の停滞を招いたのだろう。

 ※アセム編のダウネスを拠点とするヴェイガン艦隊は総力を投入
  してもビッグリング守備部隊と同程度であり。たとえここを陥落
  させても戦力を消耗した状態で連邦軍の反撃に耐えたり、ノート
  ラム占拠を実行に移せたかは怪しい。
 ※私利私欲でクーデターに参加した軍人などは表向きは戦争の勝利を
  目指すものの、実態は掌握する軍管区(領地)の維持に腐心して私腹を
  肥やすだけだろう。そのため以前に比べると軍全体の行動が鈍りだした
  可能性がある。
 ※追憶のシドでは末端の兵士が民間船舶に対して不当に通行料を要求
  している様子が描写されている。

【関連記事】
 ヴェイガン本拠地への道のり
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120217/1329494903

 フリット編とアセム編の間あたりについて
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120201/1328108777

 フリット率いるクーデター軍がするべきこと
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120503/1336040717

 アセム編でイゼルカントは何をしていたのか
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120422/1335077538

ティエルヴァのTビットに秘められた機能

Xラウンダー専用MSティエルヴァ、この機体にはTビットという
ブレード付き攻撃端末が装備されている。ビットと言えばファルシ
系が同系統の物を装備しているが、なぜTビットはブレードを装備
しているのだろうか。一つはヴェイガン系MSが装備する電磁シールド
への対抗策(ビーム以外の攻撃手段)と考えられる。そして二つ目は
ブレードの展開・駆動機構を利用して反作用効果などによる姿勢
制御を行い。スラスター制御だけでは実現できない複雑な戦闘機動
を実現する狙いがあったのかもしれない。

ティエルヴァは連邦製のXラウンダー専用MSだ。当然その相手はヴェイ
ガンが繰り出すXラウンダーだっただろう。なので敵と同等以上、そして
アンバット攻略戦で目撃されたファルシアへの対応能力も求められたはずだ。
なのでこの機体には対ファルシアを念頭にビットを装備する事になった。
しかし純粋な小型ビーム砲台を作れば出来上がるものはファルシアのビットと
大差は無いため決定打に欠ける。そうなれば後はパイロットの差と手数の
勝負となる。そこで開発陣は一案として敵のビットが持たない機能を
付加して優位性を確保しようと取り組んだ。

対電磁シールド用兵装として搭載されたブレード機構を応用してビット
の機動制御が可能となった場合、利点としては推進剤の節約と初見殺しの
機会を得る事が出来るだろう。スラスター推進による通常型ビットに
比べると自由度の高い動きが望め、それだけに先読みを仕掛けられても
敵が有効な対応を取るのは難しいだろう。付け加えて見慣れない、始めて
対峙する未知の兵器でもある。Tビットの仕組みを見破るだけでも困難だ。
(Tビットへ注意を逸らし、集中力を削ぐ効果もある)

欠点としてはコントロールの複雑化、パイロットへの負担が飛躍的に
跳ね上がる事。そしてそれに伴う搭載ビット数の減少だ。
それでも使いこなす事が出来るなら、それは十分Xラウンダー殺しとして
通用するだろう。

 ※過去にマジシャンズ8がダブルバレットのカーフミサイルに
  追尾され動揺するケースがある。これもビーム主体の戦争で
  珍しくミサイルに追い掛け回されたからだろう。
  いくら先読みが出来ても思考や精神は常人と変わらず、恐怖
  や焦りは克服できないようだ。
 ※使い方次第では敵や残骸などにブレードを引っ掛けて
  強引に軌道を変える事だって可能だろう。
 ※Tビット型はビーム球型やCファンネルには劣ると推測される。
 ※このビットにはガンダムシリーズにある設定「AMBAC機能」が
  組み込まれていたのかもしれない。
 ※電撃ホビーマガジン三月号(2013)のティエルヴァ作例に記載された
  解説によれば、同機にはXラウンダー能力を増幅させる機能が
  あるとのこと。わざわざ積んでいる理由は不明。

【関連記事】
 ギラーガとレギルスのビットについて考える
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120914/1347623050

 対Xラウンダー戦術
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20121008/1349705237

 ミサイル兵器が多用されない理由
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120727/1343396560

AGE世界におけるMSの操縦難易度

連邦は大雑把にデスペラードを始祖とするジェノアス系、シャルドールを母体
とするシャルドール系、ガンダムの量産型であるAGE1及びAGE2系。合計四系統
のフレームが混在している。それに対してヴェイガンはガフラン系の発展
・改良系にほぼ絞られている。(ここではガフラン系と呼称)

連邦は明確な軍用機を持たず、一から作り直す流れだったため作業用MSの
デスペラードを元にジェノアスを開発。これを主力MSとして採用した。
後にマッドーナ工房が開発したシャルドール改、さらにガンダムを元に開発
したアデルとクランシェが加わる。これらは全て別系統で開発された経緯から
機体の構造や武装に大きな違いがある。そのためそれぞれの取り扱いには
明確な違いが生まれていた。採用機種の乱立を許した結果、コクピット
操縦系統は出来る限り共通化が図られていたものの、設計や内臓部品の違い
からくる操縦性の差異。ウェアシステムの有無。可変機構から来る操縦の
複雑化は避けられるものではなく。パイロットは乗りなれたMSから離れる
事を嫌い、連邦軍は装備更新がなかなか進まない傾向が強かったのだろう。

ヴェイガン系MSは登場時点で非常に完成度が高く、連邦軍の追従を許さない
無類の強さを誇っていた。それもイゼルカントがEXA-DBサブユニットを得た
結果なのだが、その反動で純国産での技術発展を行える余地、機会は非常に少なく。
MS開発・技術開発は非常に遅い歩みとなった。最初期に十分満足できる兵器
が得られたため、地球への直接侵攻能力を必要としたダナジンや地上環境に
対応したゴメルなどが登場するまでヴェイガンでのMS開発は停滞、外観に
細かい差異はあれど全体を通して見れば変化の少ない状態に陥っていた。

ガフランをスタート地点として見ればバクトは重装型であり、ゼダスは高機動型
となる。ドラドは変形機構の排除と推進系の見直しで陸戦能力の向上を図ったモデル
(ガフランMS形態での性能向上機)と言えるだろう。これら外観上の変化がある一方
武装の種別と数、配置に大きな変化は無い。劇中描写から見る限り各機種での
コクピットや操縦系統はほぼ一本化されているように伺える。

それらを踏まえると一般兵向けの主力MSは乗換えが容易だったと推測される。ただし
キオ編に登場したダナジンは例外的に扱いが大変だった考えられる。この機体は地球
への直接侵攻を前提に開発された経緯があり、単独での大気圏突入能力を有してい
るようだ。さらに第二次地球制圧軍の主力を構成することから量産型AGE2(クランシェ)
との空中戦を想定した空対空能力、空対地攻撃、陸戦能力などこれまでに類を見ない
多機能が求められた。それだけにこれを扱うパイロットは別途特別な訓練を行う必要
があっただろう。

このように両陣営のMSには明確な違いが生まれていたため、連邦のパイロットは
比較的同じか同系統のMSに乗り続け、ヴェイガン側は実質的に一本化されているため
必要に応じて頻繁に乗り換える事が出来たのだろう。

 ※連邦軍で同じ機体に乗り続けた名ありパイロットと言えばラーガンだが、彼の
  愛機であるジェノアスIIはメインスラスターが双発型と連邦軍の主力MSでは
  比較的珍しいタイプだ。さらに機体各所に設けられたサブスラスターの配置関係
  も他とは違うため、この機体独自のドックファイト能力を誇っていたのかも
  しれない。ラーガンのジェノアスIIがマスターズステップを可能としている
  のも彼の卓越した操縦技術と合わせ、機体可動域の広さや推進系の配置に鍵
  があるのだろう。
 ※HGジェノアスの解説でもパイロット達はアデルよりこの機体を選んだと
  記述されている。
 ※連邦軍のメインスラスターがベクタードノズルを実現しているなら、単発より
  双発の方がより複雑な機動を取るのに適しているだろう。連邦軍で技量の高い
  パイロット達が双発型のMSを扱う事が多いのもこれが理由と考えられる。
 ※アセム編でアデルとジェノアスIIの使用部品に違いがあることを示唆している
  シーンがある。
 ※ヴェイガン側で短期間に乗換えを行ったのはゼハート、ダズ、レイル、ダレスト、
  ゴドム、グラット。
  
【関連記事】
 ガンダムAGE1開発計画とその後
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120617/1339900463

 ウェアシステムが抱える重大な欠陥とアデルMk2の開発経緯
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20130122/1358874006

 AGE3とクランシェから見る連邦の内情
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120510/1336656484

 ディーヴァ級宇宙戦艦から考える連邦の国防計画
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120901/1346507664

 宇宙海賊ビシディアンのMSがマッドーナ系で統一される理由
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20121201/1354364080

 ダナジン開発経緯を考える
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120509/1336571399