劇中描写から見るヴェイガン軍の問題点

ヴェイガン軍といえば旧世紀のテクノロジーが詰まった知恵の実とも
言うべきEXA-DBの断片を手に入れた事で、連邦を寄せ付けない圧倒的な
科学力を得る事に成功した。しかしこれは直接戦争の勝敗にまで結びつく
事は無かった。(イゼルカントの思惑もあるが)過酷な火星圏を根拠地
とするヴェイガンの国力は連邦に劣り、地球圏を押さえ込めるほどの
十分な戦力が用意できなかった。そのような方向では予想できる。

それ以外にもヴェイガン軍は連邦軍に比べると不利な面が多々ある。これら
の問題の根っこは全て科学力の優劣に起因している事が多い。一つは機密
保持用の自爆システムだ。不測の事態で連邦にMSが渡らないよう一般兵向けの
機体には自爆装置が積まれているが、この装置の恐ろしいところは起爆の決定
権(優先権?)がパイロットに無いところだ。装甲が損壊すれば有無を言わさず
連鎖的に全身の爆薬に点火するようで、機体やパイロットの回収・帰還
を非常に軽視している。
(第一話のガフラン、第八話のバクト、第十七話のドラドなど)

彼らのMSは非常に堅牢な装甲を誇るものの、一箇所でも傷を付けることが
出来たならたちまち砕ける脆さを持ち合わせる事になった。機密保持に過敏
に対応した結果、連邦軍に比べると被弾時(有効弾)の生残性では非常に
劣っている事になる。特にフリット編以降に登場したドッズガンはヴェイガン
製装甲を撃ち破れる貫通力を有しており。一発でも被弾すればそれは致命傷
になる。被弾という事実は当たり所に関わらず、自爆装置が作動する事を
意味した。

この問題はMS戦力の損耗率を上昇させ、国力の劣るヴェイガンが連邦に対して
戦力の増強でより一層後れを取る事になった。さらに未帰還機が多いという
事はパイロットの育成が進まないという事も意味する。自爆装置の存在は
実戦経験を積む機会を奪う。そのためヴェイガンでは軍組織の性質上、ベテ
ランパイロット、エースパイロットは生まれにくかった可能性が高いし、そん
な熟練兵達が長生きしにくい環境でもあっただろう。そのためキオ編に入る
までは慢性的にMSパイロットの練度不足で悩んでいたかもしれない。
(首領からすれば優秀すぎる軍隊は戦争の早期終結に繋がるので困る。
 だから人材が育たないよう自爆装置を推し進めたのだろう)

他に大きな問題として挙げられるのはステルス装置「見えざる傘」だろう。
この隠蔽装置は非常に優秀で連邦軍はずっと手を焼いていたし、余りの
優秀さから持ち主のヴェイガンですらこれがビシディアンに使用された時
は見破れずにいた。この見えざる傘を多用する事によってヴェイガン艦隊
は潜水艦のごとく宇宙の中に溶け込んで潜伏する事が可能となった。しかし
これには重大な弊害があった。それは連携である。

不可知領域に潜航している間はまず敵に見つからない、一方でそれは外との
断絶を意味する。姿を隠すにはうってつけだが、情報のやり取りをするのには
不向きだ。このためヴェイガン軍は複数部隊、多数の艦隊が連携した大規模
作戦は実行しにくい問題がある。地球圏に派遣された艦隊は全てが姿を
消しているため、事前に取り決めた定時連絡以外では連絡が取りにくい。

この連絡問題は難しいところで、不可知領域から通信用アンテナを出して
やり取りするならこれを連邦軍に傍受される恐れがある。複数艦隊を動員
した大規模攻撃を計画したとしても、何らかの理由で作戦の変更を迫られた
際、すぐに参加艦隊へ連絡が届かない。連邦軍に比べると司令部と現場部隊
の通信タイムラグはかなり大きいだろう。なので密接に連携した大規模作戦
は実行しにくい環境と推測される。
(アセム編で通信傍受に関する言及があり)

過去の戦争での情報伝達といえば音や光、伝令、手旗信号、伝書鳩などが
司令部(指揮官)と現場を繋いでいた。当然これは現代に比べると非常に
遅いわけで、短時間で把握できる範囲や交わせる情報は非常に限られた。
二十世紀に近づくと無線電信の発明により、この時間の壁は一挙に縮まる。
リアルタイムに今起きたことを報告し指揮官は即座に対処を下す。産業革命
と共に発達した鉄道網による大量輸送の実現、機械化部隊の投入と共に戦い
はスピード感を増す一方であった。現代ともなれば航空機による迅速な展開、
衛星からの情報を利用し、広大な戦場に展開した多数の部隊を一体運用する
時代に入っている。連邦軍も現代の軍隊のように通信網が完備され、艦隊や
部隊の連携が密接に行えるようになっている。しかしヴェイガンは少数戦力、
基本戦術が奇襲戦法という理由から「見えざる傘」を多用する状態になって
おり。この状態が通信の制限を生み、艦隊の連携や柔軟な運用を阻んでいた
ように見える。そのため戦場の把握や部隊の一体運用では非常に不利だった
だろう。

 ※自爆装置については動作不良がまれに起きている。第一話のガフラン、
  第十七話のドラドの右腕などが自爆せずに残っている。この時に残され
  た右腕がうまく連邦軍に回収されていれば、電磁シールドやビーム砲の
  技術を解析する機会が得られる。しかしその辺がどうなったのかは不明。
 ※電磁シールドがあるものの、これが守れる箇所はせいぜい上半身が良い所
  であり、ジェノアスのシールド同様、下半身(下方)を狙われると防ぎよう
  が無い。さらに防御システムが腕部と一体化されているため攻撃と防御
  が同時に行えない、またはやりにくい欠点がある。この点では連邦製に
  劣る。
 ※地球圏に派遣された艦隊は事前に渡された作戦指示書に従って行動していた
  と推測される。基本的には不可知領域に潜伏し、定時連絡で司令部と情報を
  やり取りし、必要があれば新たな任務に赴いただろう。
 ※通信環境は例えるなら連邦は携帯が使えるけど、ヴェイガンは主に
  公衆電話しか使えない。そんな感じの状態。
 ※劇中描写を見ると「見えざる傘」には2パターンあるように伺える。
  一つは装置を中心に最大数km程度(推定直径4km前後?)の不可知領域を
  展開する機能。二つ目は装置を搭載した艦艇、機体などの表面に不可
  知領域を纏わせ、ピンポイントに姿を消す機能。
 ※連邦は海上を航行する戦艦、ヴェイガンは潜水艦のようにも見れる。
 ※自爆装置の有無が決定的な差になったケースはあまり見ないが、AGE2が
  大破しても機体の回収に成功したり、パイロットが生還できた一例がある。
  もしフリットが機密保持を優先して自爆装置を積んでいれば、アセム
  生存は不可能だっただろう。
 ※ヴェイガン艦隊が複数方向から攻め込まず、一箇所から固まって攻め
  込んでいたのは艦隊連携に問題があったとも判断できる。
 ※自爆装置の問題は戦訓を得にくい結果も招く。そのためヴェイガンは
  半世紀を経過してもMS戦で目立った変化を見せなかったのかもしれない。
  それに比べるとビシディアンのMS隊は単体でもクランシェを押さえ込む
  実力を持ち、複数機による編隊攻撃を行えるなど練度の高さを見せ付け
  ている。
 ※フリット編のヴェイガンは14年ほど全戦全勝だったためなのか、パイロット
  の技量が高いようだ。これ以降に比べるとMSの動きは格段に良く、武装
  多彩に使いこなしている。

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 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120929/1348873141