ヴェイガンギア・シドの誕生理由とゼラギンスについて考える

 最終決戦で突如として出現したシドは、なぜかヴェイガンギアに
 取り付き、なんだかよくわからないうちに取り込まれたのか一体化
 したのか。これもまたよく分らないがそのうち馴染んで?ゼラギンスと
 一緒に暴れだした。まあつまり分らない事尽くしだ。アッシュは
 シドを取り込むつもりかもとは言っていたが、呼び出した覚えも無いのに
 急に飛んできたし、それはちょっと考えにくい。

 シドは一体どういう目的であの戦闘空域に出現し、なぜヴェイガンギアに
 取り付いたのだろうか?それについて外伝漫画追憶のシドを読んだ上で
 考えてみた。

 第45話「破壊者シド」で逆に破壊されたシドは、今回の敵に勝てるよう
 自己進化を始めただろう。自立兵器シドに付加された機能は「自己修復」
 「自己進化」となる。この「自己進化」はアニメや外伝漫画を読む限り、
 あくまでハードウェアの強化に限るようで、シドは自身を制御するAI、
 ソフトウェアのアップデート能力を持っていない。または許可されていない
 ようだ。
 (下手にいじると暴走、任務以外の行動に出る危険性があり、セーフティ
 として許可されていないのだろう)

 今回対峙した敵「レギルス」「ダークハウンド」を破壊するために、もっとも
 最適な自己進化を模索したシドのAIは、単純な装甲・武装の強化ではなく。
 敵が見せた人間の"柔軟さ"を取り入れることがもっとも最善と判断したのでは
 ないだろうか。

 第45話や漫画を見る限り。シドは防衛対象(EXA-DB)への脅威、防空エリアへの
 侵入者に対し無差別攻撃を行うだけだ。そのため戦闘プログラムに限って言えば
 高級な判断能力は持ち合わせていない。優秀なFCS(射撃管制装置)と大火力の
 火砲を多数備え、これを持ってすれば並大抵の敵は排除出来る。本編の戦いを
 見ればMSと呼称されるものの。その戦い方は実に単純でビーム砲を撃ち続ける
 だけの砲台そのものだ。
 (真正面から交戦状態に陥って生き残れたのはゼハート、アセムのみ。
 ラーガン隊は第一撃を受けた段階で戦力差を悟り、早期に撤退したおかげ
 で数名の犠牲者を出したものの部隊の全滅は回避できた)

 今回シドを破壊した敵MSのパイロット達は未来予知の出来るXラウンダーで
 あったり、非常に戦闘技量の高い自称スーパーパイロットだった。そのため
 いくら攻撃しても容易に回避され決定打に欠けていた。

 シドは敵MSのマシンスペックそのものに脅威があるとは判定せず、彼ら以外
 の一般的な人間が操縦する場合なら容易に撃墜ができると判断したのだろう。
 ではその程度のマシンでシドに勝利する要素。旧世紀の遺物はそれを乗り手の
 力、自らが持たない"人間"というソフトにあると考えた。

 しかしシドは前述の通り自己進化できるのはハードウェアのみで、ソフトウェア
 は権限外だ。自立稼働できるだけの限定的な人工知能は持たされているが、経験
 を元にAIが成長するという要素は実装されていない。予めプログラムされた
 ロジックの中でしか思考できないし、その枠を変えたり、越えたりする事は出来
 ない。これらの理由により自力でこの"人間"というソフトを作り上げる手段を持
 たず、また自らに組み込む方法が無い。

 だがたった一つだけ抜け穴、このある種のロボット三原則を回避する手段が存在
 した。実はシドのAIには裏プログラムが仕込まれており、EXA-DB開発者である
 エドル・イナーシュの人格が移植されている。つまり既にシドにはシステムの
 隠し領域とは言え、人間のコピー人格を格納できる専用装置やソフトが実装さ
 れていたのだ。

 この裏機能は、外伝漫画で暴走したシドに対しエドルがコントロールへ干渉した
 ことで初めてシドのAIに認識されたようだ。しかし干渉した結果、異物として
 セキリュティが削除に乗り出している。もっとも劇中描写ではシステムの物理的
 排除は不可能だった模様で、あくまでデータの削除に留まっている。
 なおエドルはコールドスリープに頼らない手段でEXA-DBを見守るため、シドに自
 らの人格を移植したようだ。その一方でシドの暴走や、暴走に対する干渉は想定
 外だったらしく、コピー人格へのプロテクトが不十分だった。そのため不用意に
 制御へ干渉した結果、自分の作ったセキュリティに排除される末路となった。
 (エドルの娘であり、コールドスリープで現代まで生き残った科学者レウナも、
 シドの暴走を食い止めるにはコアの完全破壊以外に手段が無いと判断している)

 漫画内の描写を整理すると、シドにはEXA-DBの守護を目的とした機能が
 持たしてある。それとは別に人間の人格を再現するシステムが組み込んで
 あった。このシステムに格納されたコピー人格はシドの制御に干渉が可能。
 シド側のAIは基本的に干渉できない立場だが、行動を阻害された場合に限り
 セキュリティプログラムの権限でシステム領域に格納されたコピー人格の
 削除が実行可能。ただし物理的排除はシドに権限(自己の破壊)が無いため不可。
 (コピー人格のデータ削除権限のみ有する)

 さらにコピー人格は任意の人物を仮想空間に引き込み、直接対話する機能を
 持っている。これはXラウンダー同士が思念で会話しているものに近い。


 さてアニメ版のシドは自身の仕様上絶対に手に入らないはずの「人間」という
 ソフトを手に入れるために、この裏機能を逆手に取って利用したのだろう。
 意図的に自身のコントロールを明け渡し、自分以上に戦ってもらおうと目論み、
 そして試みた。現状の権限であればシドの意に反するコピー人格は削除できる。
 代わりさえ見つかれば、いくらでも再インストールが可能なのだ。
 (シドにとって人間は特別な戦闘用プログラムにしか見えない)

 シドは自分に合うソフトを物色をするために連邦とヴェイガンの最終決戦場へ
 赴いたのだろう。必要なのは高い戦闘技量を持ち、シドの行動原則に逆らわ
 ない、または似た考えを持つ人物となる。その点では一度敵対したゼハートや
 アセムなどは候補になるが、彼らには強い自我が存在しシドと相反するのは間違い
 ないので候補から除外される。フリットやフラム、キオも同様だ。戦場で戦い
 続ける無名の兵士達もまた誰もが強い心を持っていた。
 (劇中描写からするとXラウンダーを候補に探し回っていたようだ)

 しかしゼラギンスは違う。イゼルカントのクローンとして生まれた彼は高い戦闘
 技量やXラウンダー能力を持つが、魂までは受け継がなかった。あの戦場で
 もっとも戦闘力のあるパイロットの一人でありながら、目覚めたばかりの彼は
 自我の無い存在だ。命じられるがまま出撃し、敵と言われた者達を撃ち殺し、
 切り殺すだけで信念も願いも望みも恨みも希望も絶望も何もかも無かった。
 人間でありながら機械の存在。シドはこれを最適なソフトだと判断しヴェイガン
 ギアに取り付いて強制接続を試みたのだろう。それが本編のあのシーンだった
 のかもしれない。

【補足】
 シドの基本スペックはアニメ、小説、外伝漫画で違いが生じている。
 EXA-DBの守護という役割は共通だが、シドに付加された機能のうち
 細かい武装や修復能力の速度などに違いが見られる。
 小説版でコピー人格の機能は未登場。

 外伝漫画で任意の人物を仮想空間に引き込んで対話する機能が登場したが、
 これは人間の思考を読み取れる事を意味している。
 使い方次第ではヴェイガンギアに取り付いた際に、ゼラギンスの視野と五感
 を奪って偽の光景を見せ、ヴェイガン軍を彼の敵"連邦軍"だと誤認識させて
 攻撃させることも可能だろう。それこそ死ぬまで幻覚空間に取り込み、存在
 しない敵を相手に戦い続けさせることも出来る。

 暴走を始めヴェイガンを攻撃したあとにゼラギンスが語った言葉は
 「終わっていない、ガンダムと全ての連邦軍MSの殲滅」であり、自分
 が友軍を撃った認識がない。これも案外シドに幻覚を見せられている
 結果なのかもしれない。

【関連記事】
 追憶のシド(四話まで)を振り返る
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20120428/1335630210

 ゼハートの最後の行動について
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20121117/1353161809

 フリットの最後の行動について
 http://d.hatena.ne.jp/UN64_RGB/20121118/1353245994