第43話 過去の栄光と今

 連邦軍によるルナベース奪還作戦は、戦端が
 開かれた当初は連邦優勢であったものの。
 MS隊が月面へ着陸した時点からヴェイガン
 側の反撃が本格化。激しい抵抗にあい、それ
 以上の進軍が困難になっていた。
 (ヴェイガン側は主力部隊を月面上に布陣させ
 敵の降下に合わせて総攻撃に出たようだ)

 連邦側が今回用意できた戦力は小規模だった
 ため、この反撃に耐えるのが精一杯で進軍
 ペースが鈍化する。敵の地上防衛線を突破
 する手立てや増援の当ては無く、時間の経過と
 共にMS隊の被害が拡大。作戦の続行にも
 支障を出し始めた。この状況に至り、アルグ
 レアス総司令とフリットは通信を行い。
 プラズマダイバーミサイルの発射を決断する
 ことになる。

 これまでの流れを振り返ると、連邦軍は準備
 不足のまま奪還作戦を実行して返り討ちに
 あっているように見える。月面の重要拠点を
 敵に渡すのが好ましくないというのも分かるが
 拠点攻略で十分な戦力を整えず、短期決戦に
 挑んだのはフリットの影響が大きいと思う。
 今回地球圏におけるヴェイガンの一斉蜂起
 では、総司令部のビッグリングが破壊されるなど
 連邦軍という組織に大きな被害が及んでいる。
 さらに戦闘は終始後手に回っており、地球側は
 かなり不利な立場にあった。

 アルグレアス総司令はここでかつての上司、
 フリットに頼ってしまったのだろう。経歴や実績は
 申し分なく、長年彼の元で働いた事から厚い信頼が
 生まれていた。現にオリバーノーツでも敵の戦闘艦
 を一隻沈め、侵攻部隊を撤退に追い込んでいる。
 彼はあの頃の手腕を期待して、軍へ呼び込んだの
 だろう。

 しかしフリットは変わってしまった。十数年前、
 総司令として連邦軍を指揮した頃の面影は薄れていた。
 地球圏を守るため、優秀な軍人として働いた頃の意思
 は消え失せ、一度は口にしなくなった「救世主」
 を孫へ語る老人になり。元軍属の民間人という立場
 から公私がまざり合う状態となっている。

 フリットは一刻も早く地球圏からヴェイガンを一掃したい
 と考え、戦力の建て直しが終わっていない情勢下で早急
 なルナベース奪還を提議して、これを承認させたの
 だろう。作戦内容はMSによる制圧を基本とし、不可能な
 場合はプラズマダイバーミサイルによる基地の完全破壊
 だったと見られる。
 (元々計画はあったが、タイムスケジュールを前倒しに
  したのだろう)

 封印兵器の使用はアルグレアスを初め、現役の兵士から
 は否定的に受け止められていた。使用決定に至った通信
 会話ではアマデウスのブリッジクルーにも動揺が起き、
 提督がフォローする事態になっている。
 (あの場面、彼はフリットの知恵に期待していたが、回答
  がミサイルの使用だったため、困ったようにも見える)

 結果的には使用せずに済んだが、これに対してアルグレアス
 はこれもフリットの狙い通りだったのだろうと自分に言い
 聞かせるように呟いていた。初めてフリットへの疑念を
 抱き始めたようにも見えるが、今後は彼に意見を求めるの
 だろうか。