フリットの最後の行動について

 戦争の道を歩み続けたフリットがラ・グラミス攻略戦で和平を
 選択したのは驚きの展開だ。一体何があったのだろうか?

 ノーラでガンダム開発に携わっていた頃のフリットは救世主
 ガンダムの建造を目標にしていた。しかし蝙蝠退治戦役に
 巻き込まれたことから、元々狂っていた人生が更に狂いだす。
 アリンストン基地司令ブルーザーが死に際に余計なことを
 言ったり、ユリンの死によって考えが大きく変わってしまう。
 (無論ドンの最後の通信も悪い方向に働いているだろう)

 少なくともアニメ版では反ヴェイガン強硬派の筆頭として活動を
 し続け、脆弱な軍の近代化を推し進め。ヴェイガンに地球圏が
 蹂躙されないよう行動した。この点を見れば彼はかなりの功労者
 だが、その一方で彼の過激な発言に賛同する者が現れる事は無かった。

 そう居ないのである。どれだけ昇進しようが、クーデターで政敵を
 葬り去ろうが、敵がどれだけ残虐な振る舞いをしようがどういう
 訳か彼の強硬な思想に賛同する者はいない。そして似たような
 考えを持つ人物もいない。この点でフリットは常にAGE世界で
 浮いた存在なのだ。唯一同じといえば劣等種の殲滅を公言している
 イゼルカントくらいだ。
 (ただしイゼルカントは哀しみを原動力に殲滅を目論んでいる)

 あまりモブキャラ(メインキャラ以外)が出てこないので判断に迷う
 ところではあるが。連邦、ヴェイガン、ザラム、エウバ、ビシディアン
 など数多の陣営の一般将兵や市民などは、意外なほどにフリット
 ような言動や、憎しみを包み隠さず見せるといった事がほとんど無い。
 戦闘中に怒りの表情を見せても、それは理性である程度の抑制が
 ついたものであり、感情的に暴力を振るう。といったものではない。

 家族を殺され、復讐のために反逆者にまで身を落としたグルーデック
 ですら、アンバットでその実行犯を目の前にしてもかなりの落ち着き
 を見せていた。彼もまた理性ある怒りで動いていた。対してフリット
 は激情に駆られ発砲寸前に至っていた。(年の差もあるのだろうけど)

 結局、半世紀以上も戦い続けたが誰にも理解されず。腰巾着の
 アルグレアスですら彼の考えには付いて行けなかった。そして
 息子や孫にまで否定される始末である。この様子だと明確な描写
 が無かっただけで設定上は約六十年の歳月の中で彼は行く先々で
 自身の考えが拒否される事態に直面し続けたのかもしれない。
 (もっとも彼の提供する技術・知識は必須なので、その利用価値から
  彼自身が排除される事はなかった)

 そしてAGE3(キオ)捕獲に直面し、取り乱した彼はAGE1大改修の名の
 下にフルグランサというアーマーをガンダムに取り付ける。かつて
 救世主となるべく作られたMSへ取り付けた鎧は、彼がヴェイガン
 殲滅という考えをより強く固めた事の表れなのかもしれない。
 だが、キオは帰ってきた。

 キオの生還は一旦硬化した考えを揺るがす一因となり、孫の語る
 火星の実情がさらに彼の考えを揺さぶり続けたのだろう。
 軍人として過ごした数十年、彼はその立場や役割から大局で物事を
 見て思考を巡らせていた。それは年老いた今でも変わることではない。
 孫の語る話が事実なら、何をなすべきかは自ずと見える。

 しかし、だからと言ってはいそうですかとは言えない。これまでの
 彼の行い、感情。その全てが重い足枷となって動きを鈍らせる。
 そのため徐々に考えが変化し始め、最後の決断に至ったのかもしれない。
 理屈では分るが感情では否定してしまうというのだろうか、そういった
 心理変化はAGE1のフラット化→フルグランサ(鎧)装備→フルグランサ
 排除という形で段階を経て描写しているのかもしれない。
 ルナベース攻略戦前後から和平と殲滅、二つの考えに揺れ動いた彼の
 心は、アーマーを排除した時点でかなり和平へ傾いていた。そして最後
 の一押しがあのキオの行動だったのだろう。もっとも実際はどうかは
 知らない。たまたま偶然そう見えるだけなのかもしれない…。

  ※範囲を広めるなら最初の学校でみんなから笑いものに
   なる時点もカウントすべきかもしれない
  ※なお外伝漫画「追憶のシド」では旧国家派閥のラクトや
   マッドーナ工房が反連邦組織であるビシディアンへ
   協力している。ラクトはかつて同志として共に戦った
   フリットを見限り、間接的にではあるが彼に銃を向けている。
   本作はAG151年の物語であり、初代首領が指揮する頃の
   ビシディアンが登場する。その目的は腐った連邦を叩き
   潰す事である。そして当時のフリット連邦軍総司令。
  ※感情的な行動を取っていたのは軒並みXラウンダーばかり
   だが、これが能力者の副作用なのかたまたまキャラ作りで
   描写が被ったのかは分らない。
  ※オブライトにしても「恐れなど無い」と言ってかなり冷静に
   戦い続けていた。それでもディーヴァの主みたいなことに
   なってる時点で相当怖い。
  ※ラ・グラミス戦の頃のフリットは手を血まみれにした
   状態であり、散々殲滅を唱え続けた自分が和平などを
   言うことにかなりの心理的障壁を抱えていたと推測される。
   結果的に世界を救うべく立ち上がった少年が、気付けば
   世界をいつまでも終わりの無い戦争に縛り続ける存在に
   なっていたのだから決断の難しさはあるだろう。
   (それこそタンカー何積分?というレベル)
  ※終盤の彼は自分自身を騙し続け、皆殺しを訴え続ける
   フリット・アスノを演じ続けたのかもしれない。
  ※フリット自身の功罪、とくにアニメでは全くと言っていいほど
   触れない罪については小説版で言及されており。フリット
   自身の罪に対して一つの行動を取る。

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