理想と現実の狭間に追い込まれ、振り回されたゼハート

ゼハートはエデン計画を理想郷の体現程度にしか認識していなかった
ようだ。そのためアセムに軍を去るように言った。これは戦争から
遠ざかれば地球側の市民でも生き残れると考えていたのだろう。彼の
中では限られた小さな武力行使、限定戦争と甘く見ていた。だが現実
は違い、彼の知らないところでヴェイガンによって民間人の虐殺や
コロニーそのものが破壊されていた。この事実がゼハートの目の前に
突きつけられたのはオリバーノーツでの出来事だろう。攻撃目標が
軍事拠点ではなく市街地であり、民間人を襲う異常性は彼も認識
できたはずだ。

戦争の暗部、争いの無い世界を作るはずのエデン計画で人々を襲う矛盾
を目の当たりにしたものの、それがイゼルカントの命令なら従うしかなく。
彼は無言で燃え上がる市街地を見ることしか出来なかった。そこへ出現
したガンダムAGE3との戦闘は一種の現実逃避に繋がり、戦いに没頭する
事で不安を忘れようとした結果があの笑みなのかもしれない。

ゼハートは自らを戦士と自称していた。マーズレイに苦しむ火星圏
の人々を地球へ連れ帰るために戦う事を誇りに思っていたのだろう。
それだけに学園でのスパイ生活が終った後の出来事は、彼を困惑させ
悩ませ続けた。唐突に司令へ抜擢され一般兵は不満を漏らし、作戦の
失敗から兄のデシルは嫌味を言い。ビッグリング攻略作戦は失敗して
甚大な被害を出して敗走。Xラウンダー部隊にはブリッジにまで来て
抗議を受ける有様だった。唯一メデルやダズと言う理解者・協力者は
いたものの、彼らも程なく戦死してしまう。信奉していたイゼルカント
は自身の失敗を咎める事も無く、また新たな指令を出す。そこには
違和感があった。彼の足場は徐々に崩れ、孤立を深める一方となった。

ノートラム攻略戦失敗以降はコールドスリープで160年代まで眠って
いたようだ。164年のヴェイガン一斉蜂起の際には首領直属のゼハート
隊として地球侵攻に参加したが、彼の周囲はかなり好意的になって
おり。以前とは打って変わって彼を信頼し、黙々と仕事をする部下達
に囲まれていたようだ。かつての失敗を知るならばレイル達の反応も
違ったものになっただろう。その観点から見るとここで情報の統制、
断絶といった事態が起きている。イゼルカントが不都合な事実を
握りつぶしていたとも言える。

一方で年齢の比較的高いザナルドは違った。彼の権限や首領の側近という
地位から過去の出来事を知っていたのか、ゼハートには不信の目を向けて
いた。そして彼が内偵で送り込んだフラムは僅かだがゼハートの過去を
知っていた。ゼハートを信頼するレイルと違い、フラムはどこか一線を
引いた態度を取っていた。この両者の違いもまた彼を苦しませていたかも
しれない。

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 ゼハートの最後の行動について
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