長い旅の終わりと新たなる戦いの始まり

連邦とヴェイガンの戦争はラ・グラミス暴走に絡んだ一件により
歯止めがかかる事になった。

火星圏を再起させ、民衆から絶大な支持を受ける首領イゼルカント。
その裏の顔は現人類を生贄に新人類誕生を目論む狂人であった。
恐るべき二面性を持っていた彼は新人類誕生に妄信し、国家指導者の
地位を悪用して戦争を演出していた。

火星という最果ての地で生まれた人々にとって、地球帰還という
目標は無二唯一の希望であり。先の無い、未来のない命を可能性の
ある戦争に投じていった。しかしイゼルカントの思惑によって
半世紀以上も無益な戦いを強いられ、彼らの手持ちのチップは底を
突き。いよいよ破産のときが訪れようとしていた。時を同じくして
イカサマディーラーもこの世を去り、戦争の仕掛け人は消えた。
連邦側にとって今回の「人命救助」は渡りに船であり、長らく戦争
に付き合わされた人々にとっては終戦への絶好の機会だった。

一方で、あの時点においてフリットが救世主たる存在になったか
どうかは定かではない。キオはそう言うものの、彼は祖父の過去を
全て知らない。過去を知らず過去に縛られないからこそ戦争を止め
ようという発想と行動が出来た。なので彼がそう言ったところで
あまり説得力は無い。
(そもそもフリットは戦争を推進した一人でもある)

終戦処理に関して本編では明確な描写が無かったものの、情勢は
ヴェイガン側が圧倒的に不利であり。それらに相当する外交条約は
連邦側が優位な形で結ばれただろう。

なにせヴェイガン側はまともな領土を持たない。軍事拠点も軒並み
失い、おまけに根拠地であるセカンドムーンの目と鼻の先まで敵の
接近を許したのだ。ラ・グラミス戦で国家指導者や軍上層部まで
軒並み死に絶え、国家としてはおおよその機能を失っていた。
対する連邦は未だに広大な領土を維持し、国家機能や軍も健在
だ。なので戦争を続けようと言うならそれは十分可能であった。

本編ではマーズレイの無効化技術を開発して火星の再開拓に着手した
ようだ。ナレーションの話を聞く限り地球圏だけでは全人類を収容
できる余裕が無いと唐突に明かされており。そのため164年にセカンド
ムーンで地球圏へ帰還したヴェイガン国民は火星に送り返された可能性
が高い。そうでなくともセカンドムーンそのものがマーズレイに汚染
されている可能性もある。死病の明確な描写が無い以上、防疫上の
観点や信用の問題から地球への受け入れは厳しい制限が課せられて
いただろう。

最後に記念館が建っていたが、その理由は本編で描写されなかった
戦後(164年以降)の活躍が評価されたためだろう。過去のガンダム
戦争を終結に導いたように、戦わないで済むように尽力したならば
それはそれで評価される。

なんだかよく分らないイヴァースシステムの発明でマーズレイを
無力化し、火星開拓を成功に導いたなら間違いなく人類の繁栄と
発展に貢献したと言える。戦闘兵器を作って戦争に加担した死の
商人よりはずっと良い。ただの戦争(戦勝)記念館でないのはそう
いう意味合いなのかもしれない。

※アニメ本編ではアスノ家ばかりにスポットが当たったため。戦争に
 巻き込まれた人々がどう考えているかほとんど伏せられている。
 つまりバランスが悪いのだ。(世界にいるのはアスノ家だけではない)

 ホビージャパンに掲載されるMSV企画「UNKNOWN SOLDIERS」では
 最終決戦に参加したヴェイガン兵士視点でのショートストーリー
 「イン・ザ・スープ」があり。そこではフリットの呼びかけに対し、
 これまでの彼の所業から呪いの言葉を吐く一幕がある。そこに
 救世主と呼ばれるような姿は無く、アニメ本編とは真逆とも言える
 描写となっている。
※セカンドムーンを覆うラ・グラミスは人々を戦争に閉じ込める
 檻のようなものとなっていた。それを当事者達が打ち砕くという
 構図は殺し合いからの脱却を意味しているとも言えるが、そこまで
 の意図があったのかは不明。
※キオの説得中にフリットが過去に死んでいった者達に語りかけら
 れるシーンがある。これまでの描写を見る限りこれは死者の魂が
 この世に残っていたとか、残留思念とXラウンダーの力で対話
 出来たというオカルトなものではなく。あくまでフリットの心理
 を他者の姿を借りて映し出したものだと思われる。もし仮に死者達
 が語れるならば、あのような都合のいい形にはならなかっただろう。
 彼に処刑されたオルフェノア首相であるとか、彼を信じて戦い死んで
 いった兵士達が苦情を言いに殺到するだろう。それもあの時だけでは
 なく連日連夜だ。

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